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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)5147号 判決

原告

中野昭夫

被告

株式会社東京放送

右訴訟代理人弁護士

植松宏嘉

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告が、ドラマ「私は貝になりたい」の原案につき、著作権を有することを確認する。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、ドラマ「私は貝になりたい」の原案(以下、「本件原案」という。)を創作したものであつて、現にその著作権者である。即ち、原告は、昭和三二年九月、被告美術部勤務の訴外坂上健司に対し、本件原案の内容を詳述したうえ、同人から被告編成局長に対し、被告においてしかるべき脚本家を選定して本件原案をそのまま採り入れて脚本化し、昭和三三年度芸術祭参加番組として製作、放送するよう伝達することを依頼した。被告は、原告の右申し入れを採用し、脚本製作を訴外橋本忍に依頼し、同人が本件原案をそのまま採用して製作した脚本に基づいて、ドラマ「私は貝になりたい」を製作し、昭和三三年一〇月、昭和三三年度芸術祭参加番組としてテレビにて放映し、更に昭和三四年一〇月三〇日にも再放映した。

2  被告は、原告が本件原案を創作した著作者であることを争つている。

よつて、原告は、被告に対し、原告が本件原案について著作権を有することの確認を求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因の事実中、原告がその主張の頃、訴外坂上健司と面談したことがあること、被告が、訴外橋本忍脚本作成にかかるドラマ「私は貝になりたい」を製作し、原告主張の頃テレビにて放映したこと、被告が、原告が本件原案の著作権者であることを争つていることは認めるが、その余は否認する。

第三  証拠〈省略〉

理由

一原告本人尋問の結果中には、原告は、本件原案を頭の中でまとめあげ、昭和三二年九月、その内容を訴外坂上健司に詳述することによつてこれを著作した旨の部分がある。しかし、右尋問の結果によれば、原告が右詳述した場所は、喫茶店であつて、しかも、右訴外人との会合は、短時間であるにもかかわらず、その内容は、ドラマ「私は貝になりたい」の導入部から終了に至るまでの、すべての映像、台詞、音楽に及んでいたというのであつて、極めて不自然というほかないこと、また、原本の存在及び成立に争いのない乙第五号証(訴外坂上健司の別件訴訟での証人調書写)の記載に照らすと、右原告本人の供述のみによつて、原告が本件原案を創作し、その著作権を取得したものと認めることはできず、他にこれを裏付けるに足りる証拠もない。

二よつて、その余の点につき判断を加えるまでもなく、原告の請求は、失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官元木 伸 裁判官飯村敏明 裁判官高林 龍)

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